骨格標本展示会場 第2展示場

まいにち書くぞ。

焼きそばの話

今週のお題「肉」 なのだが、肉の話をしようとすると焼きそばの話になってしまう。この奇妙な現象のもとは幼少期へと遡る。

俺の実家がある町にはそこそこ有名なブランド牛がある。いや、なんかどうもブランド牛というのは思ったよりどこの町にもあるようなのだが、まあとにかく俺の町にもあった。 で、親戚だか仕事関係だか近所付き合いだか知らないが、どうも一年に一回くらい、うちにその牛肉が贈られてくることがあった。

最初は家族も舞い上がったことだろう。ブランド牛というのは大体がちょっとびっくりするぐらい美味しい。うちの実家に届くそれも本当に美味しい。 ところが、人間とは恐ろしいもので、毎年届くともなると、徐々に感動が薄れていくものだ。年の離れた末っ子であるところの俺がものごころつくころにはだいぶ薄れていたのだと思う。母はそのブランド牛を焼きそばの具にして出したのであった。

あのとき、姉は激怒していた気がする。こんな素晴らしい肉を焼きそばの具にするなんて、と。ということは、母以外はまだわりとまともな神経を保っていたのかもしれない。で、幼い俺はそれを食べた。今まで食べたどんなものより美味しかった。これが焼きそばか。俺は焼きそばというものを知った。そのようなご馳走がこの世にあることを知った。

俺はリピートを要求した。幼い、かわいい盛りの俺の意見は通り、次の日もまた、ブランド牛を具にした焼きそばが出された。姉はもう諦めたのか何も言わなかった。それからうちではブランド牛とは焼きそばの具であるということになった。

俺は今に至るまで焼きそばが好物である。もちろん毎回うちにブランド牛があるはずがないから、普通の具による焼きそばが出されることは何度もあったはずだが、それらも変わらずうまいと感じていた。が、明らかに最初、俺がうまいと感じていたのは、焼きそばではなく、ブランド牛であった。

焼きそばが好きだ、という話をすると、共感してくれる人もいるが、祭りの屋台の話になったりする。奥さんは、母がいない日、祖母が孫たちのために鉄板で大量に焼いてくれる焼きそばが好きだったらしい。それらは素晴らしいのだが、どうも、俺の思っている焼きそば観とは違っている。皆は、焼きそばとはチープで親しみやすいものだと思っている。俺にとって焼きそばとはご馳走である。

しかし、ひょっとすると、世界でいちばん美味い焼きそばを食べたのは俺なんじゃないかと思ったりもする。ブランド牛が入ってる焼きそば、皆さん食べたことあります?焼きそば屋なんていうのも、富士宮なんかにはあるだろうけど、あんまりないわけで。いや、世界には素晴らしい焼きそばはたくさんあるだろうけど。

で、俺も大人になって、ときどき実家に帰ったときは、ブランド牛を買って戻ったりしている。が、さすがにそれを焼きそばの具にする胆力はない。 だいたい、どんなシーンで食べるにしても、これを焼きそばの具にしようなんて提案が通るわけもなく、しかしブランド牛を独り占めできるようなことが今後起こるとも思えず、そうすると俺はもう一生あの焼きそばを食べられないのかもしれない。そんなことを思いながら、ときどきペヤングなんかを買って美味しく食べたりしている。

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